片言のスペイン語と僅かな滞在費をもって、彼が単身スペインに渡るのを見送った日から早十数年。スペインで鍛えた正確なコンパスと強靭なリズム、その後渡った米国での夜毎のギグでさらに練り上げられた彼独自の奏法がこの「Voy Con Fusion」に見事に結実しています。音楽的にもフラメンコ、ジャズ、ロック、ヒップホップという素材をナイロン弦ギターで料理したいわば「音楽のシチュー」ともいうべきもので、こだわりをもって長い時間をかけただけあり完成度の高いアルバムです。
鬼塚さんはナイロン弦ギター、ウード、エレクトリックギターを弾いており、打ち込みとパルマも本人の演奏ですが、参加メンバーの豪華さも聴き所です。
#7「Tango De La Tormenta」には、ウエザーリポートのドラマーPeter Erskineの甥でバークレイ音楽院を優秀な成績で卒業した凄腕ベーシストDamian Erskineが参加。#11「Shin Gi Tai」には同ベーシストと2007年のノースウエスト・ベスト・サックスプレイヤーに選ばれたRenato Carantoが参加しています。
その他の曲でも、#6「Blue Bossa」は有名なボサノバ曲をガーナ出身の2人のパーカッショニストとともに12分の8拍子のポリリズムでカバー。#9「Never Mind」はオレゴンのラッパーJay Mackとともに試みたヒップ・ホップとの融合で、後半の掛け合いでは素晴らしいグルーブ感を楽しむことができます。
また、#10「Laura」はスペイン時代の作品で、彼自身の音楽の原点を見つめなおしています。