ワーグナー:
『ワルキューレ』全曲
ヴォータン:ハンス・ホッター
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ
ジークムント:ラモン・ヴィナイ
ジークリンデ:レジーナ・レズニック
フンディング:ヨーゼフ・グラインドル、ほか
クレメンス・クラウス指揮
&バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
ARKADIA 盤
クレメンス・クラウスのワルキューレ!
「新バイロイト」を切り開いた名演!
歌手陣の凄さでは歴代最高といわれるクラウスの『指環』から
ヴィーラント・ワーグナーがクナッパーツブッシュの後釜に考えていた大物指揮者、クレメンス・クラウス[1893-1954]は、この年、バイロイト音楽祭やザルツブルク音楽祭のほか、ウィーン・フィル、バイエルン放送響、バンベルク響などに出演する多忙な生活を送っており、指揮活動のピークを迎えていました。
ここで聴ける演奏も、全編に渡ってドラマティックな起伏に富む見事なもので、クナッパーツブッシュとはまた違った意味で魅力的なワーグナー像を確立することに成功した名演です。
【意義深い上演】
この1953年のクラウスのリングは、名演あまたのバイロイト音楽祭の『指環』の中でもとりわけ素晴らしい演奏だったと語り継がれているもの。それはただ単に名歌手、名指揮者が集った豪華な上演というばかりではありません。バイロイト音楽祭が1951年に再開されてから手探り状態だった「新バイロイト主義」が、この1953年になってようやく方向性が定まり、それによって後に大物となる若い世代の歌手たちと、ウィーンの名指揮者クレメンス・クラウスの素晴らしい指揮、そしてヴィーラント・ワーグナーの演出がオペラならではの「化学反応」を起こし、輝かしい爆発を起こしているからです。
クレメンス・クラウスのバイロイト出演は、ヴィーラント・ワーグナーと対立したハンス・クナッパーツブッシュが出演を辞退したため巡って来ました。クラウスの生み出すワーグナーは、明るく美しくしなやかで、躍動感と熱気に満ち溢れています。ドイツ風のドッシリガッシリしたワーグナーと異なり、旋律を伸びやかに歌わせ、場面に合わせてテンポを柔軟に動かして音楽を煽るので、雄弁かつドラマティックな、とてもエキサイティングなワーグナーです。クラウスのバイロイト出演は大評判となりましたが、翌1954年5月に急死してしまい、彼のバイロイトはこの一年だけ、『指環』は第2チクルスの1回だけに終わってしまいました。その意味でもこの『指環』は貴重な録音です。
【素晴らしい歌手陣】
1953年の『指環』上演では、1951、52年からの引継ぎ歌手に加え、多くの新しい世代の歌手が投入されました。そして彼らの多くは1950、60年代に活躍する偉大なワーグナー歌手へと成長していきます。
特に絶賛されたのが、名ヘルデン・テノール、ヴォルフガング・ヴィントガッセン。この年初めてジークフリートに大抜擢されたヴィントガッセンがいかに新鮮な驚きだったのかは、『ジークフリート』での聴衆の熱狂ぶりで明らかです。39歳のヴィントガッセンは、後の録音と比べて声がずっと若く瑞々しく、たいへん魅力的です。
ヴォータン/さすらい人にはハンス・ホッターが初めてフル起用されました。「20世紀の後半の」という括りを入れなくても「最高のヴォータン」と言って過言でないホッター、彼もまた後年よりも遥かに声に張りとツヤ、そして力強さと威力があり、ことに『ラインの黄金』は圧巻。全盛期のホッターがいかに物凄い歌手だったかを証明してくれます。
ブリュンヒルデのアストリッド・ヴァルナイは、いまだ「録音で聴ける最高のブリュンヒルデ」に挙げる人も少なくない名ソプラノ。ことに女性らしい感情描写では、その後のブリュンヒルデでヴァルナイを凌ぐ人はいないでしょう。1950年代末になると高音に翳りが出るヴァルナイも、1953年は素晴らしく美しい声で、持ち前の体当たり的歌唱と相まって最高です。
バイロイトで実に1975年まで20年以上に渡って頻繁にアルベリヒを歌った「極めつけのアルベリヒ」であるグスタフ・ナイトリンガーもこの頃が全盛期。朗々と響く美声と暗く屈折した感情表現が見事に融合しており、ホッターとの丁々発止はスリリングきわまりありません。
ジークムントには、既にオテロで世界的大成功を収めていたドラマティック・テノールのラモン・ヴィナイを起用。暗く力強い声によってジークムントの悲劇性がいや増しています。
他にも、ヨゼフ・グラインドルとルートヴィヒ・ヴェーバーの二大名バス、クールでニヒルなエーリヒ・ヴィッテのローゲ、演劇的上手さではいまだこれを凌駕するミーメはないというほど巧いパウル・クーエン、今だったらヴォータンとして引っ張りだこになりそうな素晴らしいバリトン、ヘルマン・ウーデのドンナーとグンター、名コロラトゥーラ・ソプラノ、リタ・シュトライヒの森の小鳥、など、とにかく隅々まで充実したキャストです。
【新時代の幕開けを告げるホットな演奏】
1956年のクナッパーツブッシュが指揮した『指環』が、新バイロイト様式が安定した時期のこの上なくスケール雄大な演奏だとすると、このクラウスの『指環』は、新時代への扉が開かれた時特有の、出演者と観客が興奮の渦に巻き込まれるような熱い演奏。クラウスも含め初出演者が多いことであちこちでミスが散見されたりするものの、それでもかまわず新時代へと突き進もうとする演奏は、ワグネリアンはもちろん、あらゆるオペラ・ファンに聴いてもらいたい、奇跡的な名演です。(キングインターナショナル)
コンディション良好。
発送はクリックポスト(追跡有)を予定しています。
土曜、日曜日は発送作業ができませんこと、ご了承ください。